31/May/sun

に、に、にににちよう!!!そしてごがつ最後の日!!!

PM DUCATI納車に立ち会う。
あざやかに紅い、すごく状態のいいバイクでした。

像のモチーフがかわいい。シリアルNOにも像。



やしまのうどんを食べ終わったところで豪雨に打たれた。いつもの本屋に立ち寄り、なにも買うことなく、気分に従いつつビール買って帰宅。ほろ酔い。よい酔い。





今日の思い出




わたしの家には、神楽坂にかつてあった伝説のやきおにぎりのお店、わかまつのお姉さんの名刺と一度だけ来店した際にいただいたトートバックがある。2007年3月に火事で全焼して閉店してしまったわかまつへ一度だけ行ったときのことをわたしはよく思い出す。

わたしは2005年あたりから、夜によく神楽坂をうろいろしていた。いろんなタイプのお店に行っていた。
わかまつを知ったのも、探索のときにたまたま通りかかったときに入り口に歌舞伎のポスターが貼ってあって、山ほどに盛られた入り口の塩とやっているかどうか分からない佇まいにすぐに惹かれた。やきおにぎりの店。興味を持って当然だ。

ある夜、行くところに迷ったとき、わかまつに行ってみたいと思った。嫌がる彼を連れてお店の入り口に立った。

戸をあけると「なんだ、お前。はじめてか?入り口の塩を踏んだか?踏んだか!?」といきなり怒鳴られた。たじろいでしまい、入っていいか、いけないのか、分からなくなったので「開いてますか?」と言うと「うちはコースしかないけどそれでもよければここへ座れ(命令)ぼーっと突っ立ってるんじゃないよ、ほら」と席に座ることを許された。

ボー然としていると、「なにが起こるか分からない世の中だからね、若い子が見知らぬ人を殺す世の中だから」とか、「だいたい、オンナが先に入ってきたときはロクなことが起こらない」だとかブツブツいいながら、支度をし始めた。一応、飲み物の注文をとってくれた。コース料金も内容の説明も一切なかった。

だんだんとお姉さん(本人がそう呼べと仰った)が心を開いていくのが分かった。
自分の言ったことに笑いだしたりした。お姉さんの成就しなかった恋の話やお母さんの話、置屋だった頃の辛かった話、歌舞伎座に(当時も)おにぎりをみずから納品している話、大ファンの氷川きよしさんの話、駅で転んで怪我をした話、噺家さんがお姉さんの話を聴きにくること、カップルに騙されて食い逃げされた話、おにぎりだけで一代でここまでひとりでやってきたこと、、ほんとうに沢山の話をしてくれた。びっくりするほどの早口で、声が大きく、快活で、毒舌で、頭の回転もびっくりするほど早い。アイスコーヒーをぐびぐび呑んでいた。身体よりも、脳が若いことにとにかくびっくりした。

途中何回かお客さんが覗くと「誰だお前?!」とか「帰れ!」と罵声をいきなり飛ばし、わたしたちを本当にびびらせた。彼は日本語が分からないし、お姉さんの声や話し方にドン引きしまくっていて、お姉さんが話したことを要約して説明しながら、ちょっと引きつった笑いを横目にしながら、3人でだんだんと空気も和んできた。

お料理もやきおにぎりも素朴でとてもおいしかった。なつかしい味だった。ただ、おにぎりはふたりで20個以上出された。食べきれないぐらいお皿に山になりつぎつぎ盛られた。

帰るそぶりをすると寂しそうに目がうるんでいるところを見て、お姉さんは照れ屋で寂しがりな人なんだな。と思った。歳をとってきたから、今日のことを忘れてしまっていると思うから次に来店したときにこれを見せてくれと名刺をくれた。

内観とお姉さんの写真を撮らせて欲しいと申し出たが、嫌だ。とさっぱり断わられた。

外国人の彼に気をつかってか、和紙のおりがみやコースターやお姉さんの手書きの箸袋(紛失した)をどんどん探しては出してくれた。食べきれなかったお魚や甘く煮たおいもとかおにぎりを包んでくれて「明日の朝食べなさい」と持たせてくれた。また来てね、と言ってくれた。支払いは12,000円だった。

彼は高過ぎると言ったが、これはわたしたちの値段だと思ったのでウダウダ言う彼をなだめながらふたりのほぼ手持ちをちょうど支払った。お金を拝むようにして両手で大事に受け取ると、神棚に置き大げさにお祈りするパフォーマンスを見せてくれた。彼はお姉さんのことを「狂ったうるさいババァだ」と気分悪そうに言った。わたしは、都会で商売をしていくことで成り果てたひとりの女の孤独な人生と、たぶんよそで経験できない貴重な体験をしたことがちょっと嬉しかった。選ばれた客しか入れない店だったと思うから。


わたしは、この体験を忘れられないと思う。これは、わかまつに行ってみたかったけど、行った事ない人に自慢できるストーリーだと思う。お姉さんの毒舌が恋しい。元気なのだろうか、いまどこで何をしているんだろうか。



お姉さんにいただいたトートバックは、いまもハードディスクと配線関係の入れ物として使ってます。いや、捨てられません。